20110308

「デジタルアーカイブズ」のコンセプト

今回の記事では,Nagasaki ArchiveとHiroshima Archiveを通底する「デジタルアーカイブズ」のコンセプトを,簡単に紹介したいと思います.近日中に,より詳細に記述した論文を公開予定です.


Nagasaki Archiveでは,もともと個別に存在していた以下の4つの既存のデジタルアーカイブを,デジタル地球儀で重層表示し,さらにTwitterを用いたコミュニティ生成をこころみています.
  1. 証言集「私の被爆ノート」
    長崎新聞編纂による被爆体験談と顔写真のデジタルアーカイブ.
  2. 長崎原爆資料館収蔵資料
    被爆風景写真のデジタルアーカイブ.
  3. GPS 写真集
    2006.06.18 に行われたGPS フィールドワークで収集された写真のデジタルアーカイブ.
  4. 1945 年当時の地図
    平和のアトリエ刊「写真物語あの日、広島と長崎で」(1994.07) 掲載の資料.
これらのデジタルアーカイブは貴重な資料であるとともに,3.以外はもっぱら,単独の展示施設等の資料のデジタル化と保管,その個別利用を前提にデザインされていたため,扱われている事象(長崎市への原爆投下)を,より多面的・総合的に理解するきっかけが生まれにくい,という弱点も持っていました.

私たちはこの弱点を補うために,アーカイブズ学の研究者,Sue McKemmishらが提唱する記憶保存のモデル「レコード・コンティニュアム・モデル」を参照しました.以下がそのモデルです.

(出典:日外アソシエーツ「入門・アーカイブズの世界」記録管理学会・日本アーカイブズ学会 共編)

このモデルは,時間的空間的な制約に縛られず,個人や組織の活動範囲をこえた,永続的な記録の運用を行うためのものとして提唱されています.図の次元1~ 3において,個人による個別の行為が記録され,さらに組織化されてアーカイブが構築されます.次元4は社会における集合的記憶を供給するための枠組みとして定義されており,「記録のコミュニティ」形成の次元です.これらの次元は相互参照しながら同時進行します.

次元4は「コミュニティ内において,人や組織間の行為や相互作用の多層的な積み重ねによって生み出される,あらゆる形態の記録の集合体」であり,複数のアーカイブ群と,それに関わるコミュニティを包含しています.この次元において,個別に存在していた複数のアーカイブ群を相互に関連付けて俯瞰的に閲覧することが可能となり,扱われている事象に対する多面的・総合的な理解が促される,とされています.

私たちはこのモデルを援用し,次元4に相当する新たな情報アーキテクチャを「デジタルアーカイブズ」と定義しました.具体的には,複数のデジタルアーカイブを統合し,さらにそれを包含するコミュニティの形成をおこなっています.以下はNagasaki Archiveの説明ムービーです.地図,被爆者体験談,写真,そしてTwitter上のやり取りがすべてGoogle Earthにマッピングされています.



デジタル地球儀上に重層表示することで,巨視的~微視的な情報閲覧をおこなうことができ,個別に存在していた資料どうしの,時空間上の関連性を把握することができます.さらに,コミュニティに寄せられたメッセージを閲覧したり,ユーザ同士でコミュニケーションを行うことで,長崎原爆に関する多面的・総合的な理解を促すことを志向しています.

Hiroshima Archiveの制作においては,Web公開許諾を得た被爆体験談のデジタルアーカイブが存在しなかったために,被爆60周年記念証言集「平和を祈る人たちへ」をはじめとする文献のデジタルデータ化と,矢野一郎先生の記事にあるように,広島女学院高校の生徒たちによるビデオインタビューがおこなわれています.その他,さまざまな個人・団体とのコラボレーションも進行しています.こういった一連の活動は,前述したレコード・コンティニュアム・モデルにおける「記憶のコミュニティ」形成の一翼を担っています.

写真資料については,広島平和記念資料館収蔵「平和データベース」における,緑色のカテゴリに収められているものを用います.さらに,デジタルコミュニティ形成にはTwitter,Facebookをはじめとするソーシャルメディアを活用する予定です.

3月をもって資料収集のフェーズは一区切りとなり,アーカイブズの設計と制作がスタートします.(渡邉英徳)

0 件のコメント:

コメントを投稿